70. Mercurius 水銀
Mercurius  <国中 史佳 訳>






どうみたって あなたがそうであることは不思議

暑かったり寒かったり おかしなタイプよね

無意識の検閲を受けるから 表に出にくいけど

突飛で思いがけない考えの持ち主

不用意で乱暴だから 人付き合いは上手な方ではないかしらね

梅毒の夜明け前の闇が

見るものを疑わしく そして行き詰まらせるの

正しさを主張するから すぐ争いになりがち

指図されると 反抗的な気持ちに傾く

見かけと違って心はひどく緊張しているの

異様な衝動に駆られたら それはみっともないからね

恐れていることは長い長いリストになりそう

ちょうどそれは あなたの内面を映している

すっかり口を開けたときには 白い舌と酷い口臭

床に滑るよだれ たっぷり膿をもった口内炎

思わず鼻をつまんじゃう 取ってあげることはできないわ

バターもパンも 欲しいだけ召し上がれ 

ひと息に飲みこんじゃってね

悪意を持って何が近づいて来るって? 周りを気にしないでみてほしいの

自分が先に気付いてみせるなんてこと 死者の霊まで相手にしないでね

気まぐれで不安定なあなたはマーキュリー

私が落ち着かせることはできそうもないわ

液体で金属という奇妙な在り方 それがまさにあなたの真実であるの




マーキュリー(水銀)

悪臭のある分泌物、うち解けず、疑ぐり深い精神状態、不安で落ち着きのない人、汗をたくさんかいても症状は良くならない、
膿瘍、潰瘍、腺の腫れ、


歴史的背景

紀元前1600年のエジプトでは、水銀を医療に用いていたという記録がパピルスにしるされている。そこから始まってそのほかの西洋諸国でも、梅毒の治療に盛んに用いられてきた。しかし毒性による副作用があまりにも大きかったため、現在では使われていない。水俣病は水銀毒による神経障害で、多くの問題を後世に投げかけた痛ましい公害である。
水銀 (マーキュリー)












水のような銀、生命力ある銀、流動するので生きているという表現をされている。 日本語ではみずかねと呼ばれていた。

Mercuryは西洋占星術や錬金術などの神秘思想では、ギリシャ神話のヘルメス(ローマ神話のメルクリウス)と関連づけられ、その星である水星を象徴する。これは、液体で金属であるという奇妙な性質が、変幻自在で油断ならないヘルメスの性格と関連づけられたためである。

<性質>

水銀は、各種の金属と混和し、アマルガムと呼ばれる合金をつくる。これは水銀が大半を占める場合には液体、水銀の量が少なければ固体となる。白金、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンとは合金を形成しないので、水銀の保存には鉄の容器が用いられる。

生物に対して毒性が強いために、近年は使用が控えられている金属である。

また、その特異な性質から様々な科学者の興味の対象となり、多くの現象の発見にかかわっている。


<毒性>

古代においては、水銀や辰砂(鮮血色をしている)はその特性や外見から不死の薬として珍重されてきた。特に中国の皇帝に愛用されており、それが日本に伝わり飛鳥時代の持統天皇も若さと美しさを保つために飲んでいたとされる。しかし現代から見ればまさに毒を飲んでいるに等しく、始皇帝を始め多くの権力者が命を落としたといわれている。中世期以降、水銀は毒として認知されるようになった。

世界中において有機水銀はかつて農薬として広く使われ、1970年代にイラクでは、メチル水銀で消毒した小麦の種を食用に流用したパンによって有機水銀中毒で400人以上が死亡する事件がおきた。そして、その毒性から現在は使用が禁止され、代わりに無機水銀などが使われるようになった。さらに、現在では水銀化合物自体の使用が環境汚染につながるとして忌避されるようになっている。

2001年にアメリカ合衆国では「乳児の際に受けた予防接種中のチメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム・ワクチンの防腐剤として使用される)によって自閉症になった」として製薬会社に対する訴訟が発生した。三種混合ワクチン、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンなどの保存剤としてチメロサールが使われていたためである。有機水銀と自閉症を関連づける明確なデータがないため疑問視されているが、チメロサールを使わないか低濃度のものに替えるなど規制が強化されている。

有機水銀・メチル水銀の中枢神経系(脳)に対する毒性は強力で、日本で起きた水俣病(熊本県八代海)や阿賀野川流域(新潟県)でおきた工場排水に起因する有機水銀中毒(第二水俣病)の原因物質である。

地球上においては地殻などに水銀が比較的豊富に存在する。これら自然界に存在する水銀は水系環境において非酵素的反応や微生物の作用によって有機水銀に変化し、食物連鎖を通じて、大形魚類や、深海魚、海洋動物に蓄積される。厚生労働省はキンメダイやカジキ、マグロなどの魚類、クジラ、イルカなどの海棲哺乳類に含まれる水銀が胎児の発育に影響を及ぼす恐れがあるとして、妊娠中かその可能性の有る女性は、魚介類の摂取量や回数を制限するように注意を喚起している[2]。

栄養摂取に占める魚介類の割合が多い日本では、メチル水銀の摂取量が諸外国に比較して比較的高いことが知られている。メチル水銀の摂取量の地域的特徴は、マグロ類の消費傾向とよく一致し、関東地方などを中心とする東日本で高く、中国地方から九州北部にかけて比較的低くなっている。

魚介類は栄養的にも優れた食品であり、バランスの取れた食生活をしている限りは、通常は微量の汚染物質による健康影響を心配する必要はあまりない。一方、発育途中にある胎児の神経系は、メチル水銀の影響を最も受けやすいと考えられる。魚介類にはある種の不飽和脂肪酸など、胎児の発育などにも有効な成分も多く含まれており、魚介類中に含まれる微量のメチル水銀が、胎児の発達にどれほどの影響を及ぼしているかは、研究者によっても見解が分かれるところである。欧米の政府機関は、基準を設けて、マグロやカジキなどの摂取制限を行っている[3]。特に妊婦や妊娠する可能性のある女性は、メチル水銀を多く含む大形食魚やイルカ、キンメダイなどの魚介類などを、基準より食べ過ぎないよう注意するとよい[4]。なお、マグロなどの魚介類は有害物質のセレンを含んでおり、これがメチル水銀の毒性を軽減させているとの可能性も指摘されているが、詳細は不明である。

自然界では無機水銀及び有機水銀を処理して、金属状態の水銀に変化させる菌が存在する。この菌は通称水銀耐性菌と呼ばれ、水俣病の発生した地域の土壌から単離された。水銀耐性菌において無機水銀及び有機水銀を金属水銀に代謝するのは、この菌の産生するタンパク質によるものであることが遺伝子工学的な解析により判明しており、その担当遺伝子の解析も行われている(メタロチオネインも参考のこと)。環境汚染の浄化技術として、いわゆるバイオレメディエーションへの応用も行われている。

体温計に使われている水銀は金属水銀なので安全だと言われている。金属水銀は間違って飲み込んだとしても、消化管からはほとんど吸収されないので、急性中毒を起こすことはない(ただし、一部が腸内細菌叢により酸化されたり、有機水銀に転換されて吸収される余地が示唆されている)。しかし、気化した場合には肺から吸収されやすく、体内に吸収された場合にはヘモグロビンや血清アルブミンと結合し毒性を示す。このため水銀を含有する物(蛍光灯・体温計・血圧計、朱肉など)を焼却することは危険である。


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